「ザ・メッセージ」現代ファンクとシュガーヒル・バンド

Grand Master Flash & The Furious Five / The Message (1982)

Grand Master Flash & The Furious Five / The Message (1982)
via. Discogs

ファンクのルーツはラテン音楽とニューオーリンズのリズム&ブルース。

そして何よりも1960年代半ばのジェームス・ブラウン・バンドのサウンド。余分なものを削ぎ落とした猛烈なリズムがそのルーツです。

しかし今、ファンクは変わりつつあります。

最近では、ブラック・ポピュラー・ミュージックの第一人者たちが、斬新で刺激的な方法によって「ファンクの公式」を激変させつつあります。

FUNK TAKES A PROVOCATIVE TURN : The New York Times (1982/11/21)

ニューヨーク・タイムズのアーカイブ、1982年11月21日号のサウンド&レコーディングス面に掲載された特集記事より。

当時リリースされたばかりの名作アルバム、マーヴィン・ゲイの「Midnight Love」やプリンスの「1999」と並ぶ新しいファンク・ミュージックの一例として、グランドマスター・フラッシュ & ザ・フューリアス・ファイヴのファーストアルバム「ザ・メッセージ」を大きく取り上げ、そしてそのサウンドを支えるシュガーヒル・レコードのハウスバンドについて特集しています。

「ファンク」の定義が変わりつつある

James Brown – Give It Up And Turnit A Loose (1969)

James Brown – Give It Up And Turnit A Loose (1969)
via. Discogs

「ファンク」という言葉を、明確に定義するのは難しい。

今日のポップミュージックにおいて「ファンク」とは、ドラムのずっしりとしたバックビートが基本となり、メロディックなベースラインがゆっくり走るように、また時には同じ音を繰り返す。さらに電子機器のノイズ的な、また電気信号的なパーカッションが加わることもある。

一般的には、こういったリズム言語として理解されています。

ファンクのルーツはラテン音楽とニューオーリンズのリズム&ブルース。

そして何よりも1960年代半ばのジェームス・ブラウン・バンドのサウンド。余分なものを削ぎ落とした猛烈なリズムがそのルーツです。

しかし、今では世界中のミュージシャンやバンドがファンクに挑戦。

イギリスのニュー・ウェイヴ・ロックが、黒人向けラジオ局の音楽フォーマットにぴったりと馴染み、ナイトクラブのダンスフロアでは白人と黒人がひとつになる。これはファンクが共通のリズム言語だからです。

Ian Dury And The Blockheads / Hit Me With Your Rhythm Stick (1978)

Ian Dury And The Blockheads / Hit Me With Your Rhythm Stick (1978)
via. Discogs

ファンクのリズムは、さまざまなリズムのパターンを積み重ねることによって編成されています。しかしこの15年の間、パターンの細部は多少変化しているものの、リズムセクションにおける各楽器の積み方やその役割、さらには理想とする楽器のバランスさえも、驚くほどにほとんど変化していません。

しかし今、ファンクは変わりつつあります。

そのきっかけのひとつは、さまざまな前衛芸術家たちによる「実験」です。

そして最近では、ブラック・ポピュラー・ミュージックの第一人者たちが、斬新で刺激的な方法によって「ファンクの公式」を激変させつつあります。

先進的なブラック・ミュージックは全ての先を行く

Prince – 1999 (1982)

Prince – 1999 (1982)
via. Discogs

マーヴィン・ゲイやプリンス、グランドマスター・フラッシュ & ザ・フューリアス・ファイヴ、そして新人のスウィートピー・アトキンソンのニューアルバムは、つい最近まで非常に画一的だったリズムの概念を、驚くほど多様な視点から表現しています。

ファンクというやや抽象的な概念へのこだわり以外に、こうしたアーティストたちの「音楽制作へのアプローチ」に共通点があるとすれば、新しい録音技術や音響技術に対する彼らの姿勢です。

Marvin Gaye ‎– Midnight Love (1982)

Marvin Gaye ‎– Midnight Love (1982)
via. Discogs

Sweet Pea Atkinson – Don't Walk Away (1982)

Sweet Pea Atkinson – Don’t Walk Away (1982)
via. Discogs

リン・ドラム(コンピュータ化された電子ドラム・キット)や高機能のポリフォニック・シンセサイザー、そしてシーケンサーなどの高度なリズム生成装置。さらにシンセサイザー技術をギターや声の増幅に適用することで、音の可能性の全く新しい世界が開かれました。

また20世紀のアメリカで、ポピュラー音楽の発展において頻繁にそうであったように、黒人向けのポピュラー音楽を作るアーティスト、プロデューサー、技術者たちは(黒人白人を問わず)新しい技術をいち早く活用しています。

この分野で最も積極的な人々は(ロックの世界でアバンギャルドを自称する一握りの人たちを除いて)実際に、他の誰よりもずっと先を行っていると考えられます。

Linn Electronics LM-I Drum Computer (1982)

Linn Electronics LM-I Drum Computer (1982)
via. Reverb

Sequential Circuits The Prophet 5 (1980)

Sequential Circuits The Prophet 5 (1980)
via. retrosynthads

シュガーヒル・バンドと「ザ・メッセージ」

The Sugarhill House Band

The Sugarhill House Band
via. Duke Bootee

ニュージャージー州の革新的なレーベル、シュガーヒルは、現代ファンクのリズムセクションといっても過言ではないハウス・バンドを結成。

シュガーヒルは、ラップ・アーティストたちの活躍によって、ポップチャートでの成功を収めています。

「ダグ・ウィンビッシュ」のベースと「キース・ルブラン」のドラムは、ギターとシンセサイザーが織り成す波のような音の中で、カミソリのようにシャープなリズムを刻みます。

そんなシュガーヒルの中でも、最も独創的でダイナミックなラップグループが、グランドマスター・フラッシュ & ザ・フューリアス・ファイヴ。

卓越した技を持つディスクジョッキー「フラッシュ」はミュージシャンが楽器を演奏するのと同じように、2つのターンテーブルを使い曲を演奏。親指でディスクを操り、リズミカルな「ブレイク」の断片を無制限に繰り返します。

その鮮やかなレコードさばきに「フューリアス・ファイヴ」のラップが融合。ソロとユニゾン、コール&レスポンスで場を盛り上げます。

Grandmaster Flash and the Furious Five (1981)

Grandmaster Flash and the Furious Five (1981)
via. Laura Levine/Getty Images

今年の初めにリリースされたグランドマスター・フラッシュのシングル「ザ・メッセージ」は、ゲットーからの激しい抗議であると同時に、素晴らしいファンクレコードでもあります。

全編がポリリズムで満ち、エレクトロニックな掛け合いはファンクを要約した「もうひとつのファンク」を生んでいます。

空間と静寂を強調したサウンドからは、まさに「禅」を連想。

このシングル曲は、グランドマスター・フラッシュ & ザ・フューリアス・ファイヴの、同名ファースト・アルバムのハイライトともなっています。

Grandmaster Flash & The Furious Five ‎/ The Message (1982)

Grandmaster Flash & The Furious Five ‎/ The Message (1982)
via. Discogs

過剰にスティーヴィー・ワンダーへのオマージュを捧げた2つのバラード「ドリーミン」「ユー・アー」は、やや場違いな印象を受けますが、アルバム「ザ・メッセージ」にはテンションが上がる要素が満載です。

特にA面、「イッツ・ナスティ」の編集版を始め、トム・トム・クラブ「ジーニアス・オブ・ラブ」の機知に富んだ改変バージョン、そしてグループの最新シングル「スコーピオ」が収録されています。

Grandmaster Flash & The Furious Five ‎/ The Message (1982)

Grandmaster Flash & The Furious Five ‎/ The Message (1982)
via. Discogs

シュガーヒル・バンドの演奏は、現代ファンクの定義を明確に提示。

そして、黒人向けポピュラー・ミュージックのサウンドが、テクノロジーによって急速に変化しているとはいえ、一流のリズム・セクションの演奏は何物にも代えがたい、ということ。

(「ともに祈る家族はいつまでも別れない」という、ことわざをもじって) 「ともに演奏するミュージシャンは、いつまでも別れることはない」ことを示しています。

関連記事:「ザ・メッセージ」:グランドマスター・フラッシュ & ザ・フューリアス・ファイブ(1982年)

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