
via. Billboard
ニューヨークの音楽市場で、ラップレコードが店に氾濫。
シュガーヒル・ギャングがリリースしたラップDJ・レコード「ラッパーズ・ディライト」が、ディスコやホット100のチャートで成功を収め、ザ・ファットバック・バンドの「キング・ティム・III」がソウル・チャートに登場したことは、流行に敏感なニューヨークの音楽市場に、二重の効果をもたらしました。
米ビルボード誌1979年12月22日号の記事より。
まず1つ目にオリジナリティと品質に差はあれど、似たようなラップのレコードが氾濫しているということ。
2つ目に、レコードの購入者たちが、他にもダンサブルなレコードがないか探究するようになり、特に「音楽にリズミカルなボイスが乗ったもの」の売れ行きが伸びています。
先月ニューヨークのレコード店には、少なくとも6枚のラップ・DJのレコードが登場。
レコードのほとんどはラップの人気に乗じて作られ、小規模な独立レーベルからリリースされています。

Sugarhill Gang / Rapper’s Delight (Red label, 1st pressing 1979)
via. Discogs

The Fatback Band / King Tim III (Personality Jock) (12inch promo 1979)
via. Discogs
ニューヨークの音楽市場で激増するラップ・レコード

「P&Pレコード」の広告 (1979/11/24)
via. Billboard
マンハッタンを拠点とするインディペンデント・レーベル、「P&Pレコード」からラップの12インチレコードが2枚発売されています。
スプーニン(スプーニー)・ジーの「スプーニン・ラップ」と、ウィリー・ウッド&ウィリー・ウッド・クルーの「ウィリー・ラップ」。
なかでも、「スプーニン・ラップ」は、黒人向けクラブで素晴らしい反応を得ています。

Spoonin Gee / Spoonin Rap (12inch 1979)
via. Discogs

Willie Wood & Willie Wood Crew / Willie Rap (12inch 1979)
via. Discogs
エンジョイ・レーベルからは、ファンキー・フォー・プラス・ワンの「ラッピン&ロッキン・ザ・ハウス」。
フィラデルフィアのTECレーベルからリリースされた、レディー・Bの「トゥ・ザ・ビート・ヨール」もこの界隈で注目を集めています。

Funky Four Plus One / Rappin & Rocking The House (12inch 1979)
via. Discogs

Lady B / To The Beat Y’all (12inch 1979)
via. Discogs
サルソウル・レコードからエントリーされたラップ曲、ジョー・バターンの「ラッポ・クラッポ」が、ビルボードのディスコ・チャートに登場。
ラテン・ソウルのベテラン・パフォーマーによる12インチ・シングルは、先週スターを獲得して60位を記録しています。

Joe Bataan / Rap-O-Clap-O (12inch Promo 1979)
via. Discogs

“Rapo-Clapo” No.60 with a star
via. Billboard Disco Top 100 (1979/12/08)
「クリスマス・ラッピン」カーティス・ブロウ

Kurtis Blow Concert Flyer (1980)
via. CUL
マーキュリー・レコードはメジャー・レーベルだけあって、ラップのレコードも店頭に。
娯楽性もあるし、季節感もあります。
「クリスマス・ラッピン」は、ニューヨークのクラブDJ、カーティス・ブロウによるもので、深夜に開かれているハーレムのハウスパーティーに、サンタクロースが立ち寄ったらどうなるのか、を描いたもの。
リリック(歌詞)はカーティス・ブロウに加え、セッションの共同プロデューサー、J.B.ムーアとロバート・フォード・ジュニアが担当しています。

Kurtis Blow / Christmas Rappin’ (12inch 1979)
via. Discogs
ラップ・レコードのほとんどが、ラジオでのオンエアが実現しない中、この斬新なラップは、ニューヨークのラジオですぐに受け入れられました。
WBLS-FMがプレイリストに追加したのです。
実際、WBLSの番組ディレクターのフランキー・クロッカーは、「クリスマス・ラッピング」からナット・キング・コールの名曲「クリスマス・ソング」へ、という曲順を好んでプレイしています。

Kurtis Blow / Christmas Rappin’ (12inch Promo 1979)
via. Discogs
「歌わない曲」、続々登場

Ian Dury And The Blockheads / Reasons To Be Cheerful (Part Three) (12inch 1979)
via. Discogs
また、ラップの人気は、その他の「歌わない曲」にも市場を解放しました。
スティッフ・レコードからリリースされた、イアン・デューリー&ザ・ブロックヘッズの「リーズンズ・トゥ・ビー・チアフル」は、ロック・ディスコでの人気と同じくらい、ここニューヨークの黒人向けクラブでも大好評です。
さらに、このイギリス製ラップは、ラジオの異なるフォーマットを超えて、WBLSやWKTU-FM、WPIX-FMなどで放送されています。
ニューヨークでロックとディスコの垣根を越えたのは、この「リーズンズ・トゥ・ビー・チアフル」が2曲目。
今年の夏に、同じくザ・ブロックヘッズの「ヒット・ミー・ウィズ・ユア・リズム・スティック」がそれを成し遂げています。

Ian Dury And The Blockheads / Hit Me With Your Rhythm Stick (1978)
via. Discogs
ザ・フライング・リザーズは風変わりなサウンドで、ベリー・ゴーディ作、リズム&ブルースの名曲「マネー」をカバー。
この「歌わない」ロック・ディスコは、ヴァージン・レーベルからリリースされています。

The Flying Lizards / Money (1979)
via. Discogs
レゲエとラップは親和性が高い

John Lydon and U-Roy, Hellshire Beach, Jamaica (1978)
via. Kate Simon
「ラッパーズ・ディライト」と「クリスマス・ラッピング」は、どちらもイギリスや、カリブ海地域ですぐに受け入れられました。
ラップDJのレコードが、これらの市場を魅了した理由は、界隈のオーディエンスたちがジャマイカの「トースティング」に親しみを持っている、ことに直結しています。
「トースティング」とは、ヘビーなドラムとベース、レゲエのリズム・トラックをかけながら、同時にDJがラップするのが特徴。DJの言葉を反響させるため、エコー・エフェクトを使用ことも多いです。
1960年代初頭にジャマイカで開発されたスタイルで、「トースティング」を確立したパイオニアとして、最もよく知られているのがヴァージン・レコードのU・ロイです。

U-Roy / Dread In A Babylon (1975)
via. Discogs
レゲエのリズムトラックにスポークン・ラップを乗せた、リントン・クウェシ・ジョンソンのロック・ポエトリーが批評的な注目を集めています。
マンゴ・レコードのアーティストである、彼のアルバム「フォーシズ・オブ・ヴィクトリー」は、現在アメリカでカルト的なアイテムに。
さらに彼の政治的なラップは、ニューヨークの一部のラッパーやDJたちに影響を与えています。

Linton Kwesi Johnson / Forces Of Victory (1979)
via. Discogs
DJエディー・チーバ

Eddie Cheba (1979)
via. CUL
そして、最も新たにラップ・DJ市場へ参入するのは、ブロンクスを拠点に活動するDJ、エディー・チーバ。
チーバはニューヨークで最も有名なラッパーの一人であり、おそらく彼のレコードなら間違いないはず。
ツリー・ライン・レーベルからリリースされた「ルッキン・グッド(シェイク・ユア・ボディ)」は、クラブや小売店での評判もよく、順調な滑り出しを見せています。

Eddie Cheba / Lookin’ Good (Shake Your Body) (12inch 1979)
via. Discogs

via. Billboard (1979/12/22)

via. Billboard (1979/12/22)