スクーリー・D「P.S.K.」があったからこそ「ライセンス・トゥ・イル」が生まれた:クエストラブが語るヒップホップ・クラシックの背景

Schoolly D ‎– P.S.K.-What Does It Mean? (1985)

Schoolly D ‎– P.S.K.-What Does It Mean? (1985)
via. Discogs

前代未聞だ。絶対に前例がない。

このシングルがあったからこそ、アルバム「ライセンス・トゥ・イル」が生まれた。ビースティは、スクーリー・Dが作った「ブルースの定型句」を踏襲したのさ。

Questlove Picks Rap Favorites- Top 50 Hip-Hop Songs of All Time – Rolling Stone

フィラデルフィアが生んだギャングスタ・ラップのルーツ、スクーリー・D「P.S.K.ホワット・ダズ・イット・ミーン?」を、同郷のクエストラブが自身の体験を交えながら解説。米音楽メディア「Rolling Stone」の特集記事より。

ヒップホップの名曲ランキング全50曲では「16位」に選出。印象的なエコーの話から、その後のヒップホップに与えた「定型句」の話、ゆらぎのあるタイム感がドラムマシンを「手動」で操作していたという新事実まで、独自の視点で解説をしています。

関連記事:ヒップホップ 不朽の名作 14曲 [1979年 – 1986年編]:クエストラブが選ぶ

[16] Schoolly D “P.S.K. What Does It Mean?” (1985)

[16] Schoolly D “P.S.K. What Does It Mean?” (1985)
via. Rolling Stone

スクーリー・D「P.S.K.ホワット・ダズ・イット・ミーン?」(1985年)

1985年の感謝祭、俺は14歳だった。午後10時、ラジオの周波数を「パワー99FM」に合わせていた。

その時、聞こえてきたのがローランド909の音。

まるで8区画分の広さに建っている教会の、大聖堂で鳴らしているかのように響いていた。それくらいエコーが効いていた。

さらにエンディングでは、各フレーズでドラムがオフビートで入ってくる。その連続で、俺は催眠術にかかってしまった。

Roland TR-909 Rhythm Composer (1983)

Roland TR-909 Rhythm Composer (1983)
via. Roland

「ブルース」という音楽は我々に「1-4-5-1」のコード構造を提示した。

* 「1-4-5-1」のコード構造:
「スリー・コード」とも呼ばれる、ブルースやロックンロールなどの音楽ジャンルで定番のコード構造。1度から始まり、4度、5度と進み、1度にもどるコード進行。

曲のキーが「C」の場合、コード進行は「C-F-G-C」、キーが「G」の場合、コードは「G-C-D-G」。

「P.S.K.」はまさに「ブルースの第2形態」ともいえる曲で、ブルースのコードと同じように、4部構成でできていた。

1番目に、状況説明(「その場所に着いて、何を見たって?」)
2番目に、その様子(「俺に似たようなヤツらがいたんだ」)
物語の山場(「俺はヤツの頭に銃口を突きつけ」)
そして結末(「言ったんだ『クソ野郎、撃ち殺すぞ』」)

前代未聞だ。絶対に前例がない。

このシングルがあったからこそ、アルバム「ライセンス・トゥ・イル」の全曲が生まれた。ビースティは、スクーリーが作った「ブルースの定型句」を踏襲したのさ。

Beastie Boys ‎– It’s The New Style / Paul Revere (1986)

Beastie Boys ‎– It’s The New Style / Paul Revere (1986)
via. Discogs

(ビースティ・ボーイズ「イッツ・ザ・ニュー・スタイル」より)

1「銀行に金があるから、俺はハイでいられる」
2「お前の彼女が、俺のことを超カッコイイと思っているのは、そのせいだ」
3「俺のベッドには、双子の姉妹がいる」
4「あいつらの父親が俺に嫉妬してきたんで、俺はヤツの頭を銃で撃った」

この定型句は「ギャングスタ・ラップ」という愛すべきジャンルを生み出した。

そして、これをそのまま受け継いだのが(カリフォルニアのヒップホップグループ)「N.W.A」だ。

N.W.A ‎– Straight Outta Compton (1988)

N.W.A ‎– Straight Outta Compton (1988)
via. Discogs

偶然にも「P.S.K.」のエンジニア、ジェフ・チーズステーキと一緒に仕事をする機会があった。その時に、ちょっとした知られざる事実が発覚した。

彼が言うには、誰もドラムマシン「909」のマニュアルを読まないので、シーケンスの仕方がわからなかった。

だからスクーリーはマイクの前に立って、自分でボタンを押しながら韻を踏んでいた、ということだ。

ともかく、フィラデルフィア出身の一人として、これ以上に誇らしいことはない。

俺のホームタウンがいかにイノベーターで溢れていたか、という典型的な例だ。

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