
Grandmaster Flash on ‘The Get Down’ and how he used science to pioneer DJ techniques
via. The Washington Post
当時のDJは俺のことを「極めてDJを冒涜している」と思っていた。
俺は生まれつきの「オタク」で、スタイラス(針先)について徹底的に研究した。レコードを反時計回りに動かした時の圧力に対して、それでも針飛びしないで溝に収まる適切な針を見つける必要があった。
ヒップホップ黎明期を描いたNetflixドラマ「ゲットダウン」の配信開始(2016年8月12日)を記念して、ワシントン・ポストに掲載された特集記事より。(ドラマにはママドゥ・アティエ演じるグランドマスター・フラッシュが登場)
フラッシュ氏はワシントン・ポストに対し、彼がどうやってこの技術を思いついたのか、そして完璧なターンテーブルを見つけた話。さらに自分の名前の由来について語った。
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パーティーで好評なドラムソロが10秒しかない問題
母と姉はよくハウスパーティーをしていた。その時に気づいたんだが(レコードの)ドラムソロがある部分は観客の反応も良くなるということだ。驚いた。なぜ、それがレコードの大部分じゃないんだろう。じゃあ(全編丸ごと収録でもいいぐらいな)この10秒のパートをどうすればいい。
(今風に言うと)手動で編集して、ビートに合わせてカット&ペースト?
そこで、DJを見に行ったり聴きに行ったりして、いろいろ考えた。そしてその結果、レコードに対する重大な違反行為的なことをしなければならなくなった。それでみんなに嫌われた。当時のDJは俺のことを「極めてDJを冒涜している」と思っていた。

フラッシュはレコードに直接チョークで印をつけ、円盤の表面を触り倒した
via. NMAH/twitter
「ウエハース」がゴムマット問題を解決
俺は生まれつきの「オタク」で、スタイラス(針先)について徹底的に研究した。レコードを反時計回りに動かした時の圧力に対して、それでも針飛びしないで溝に収まる適切な針を見つける必要があった。
次に、ターンテーブルに付属しているゴムマットをどうするかということだ。レコードを反時計回りに動かそうとすると、抵抗や摩擦が大きすぎるのでゴムマットは外さなければならない。しかしその下にはスチール製の円盤(プラッター)がある。
問題は金属盤の上には直接レコードを置くことができないということだ。反対側の面に傷がついてレコードが台無しになってしまうからだ。
俺の母親は裁縫の仕事をしていたから俺も生地の種類は知っていた。そして触った感じから「これは使えるかもしれない」と思ったのがフェルトだった。しかしフェルトはドレープ(たるみ)が出るし、しなやかなのが難点。
とりあえず急いで家に戻り、アルバム(レコード)を持って買い物に。そして、33インチLPと同じ大きさの円を2枚分、切り取るのにちょうどよいフェルトを買ってきた。そして、(母が見ていない隙に)アイロンを温度高めに設定して、母が使っていたスプレー式の洗濯のりを使った。
このぐにゃぐにゃのフェルトが、イースターの時に教会で食べるウエハースみたいになるまでスプレーした。俺はこれを「ウエハース」と名付けた。

聖餐式のウエハース
via. Getty Images
それが今、スリップマットと呼ばれているものだ。あとは、自分に合ったターンテーブルを見つけるだけだった。
「トルク理論」と「Technics SL-23」

Technics by Panasonic
via. ebay
フィッシャープライスからマグナボックスまであらゆるものを試してみた。廃品置き場に行って捨てられたステレオ機器を寝室にまで持ち込んでテストしたものだ。一番重要なのは、プラッターが静止した状態で電源を入れた時。もし1回転する間にスピードが上がらないようなら、そのターンテーブルは「トルクが弱い」ということだ。
レコードを反時計回りに回転させるのでトルクの「筋力」が必要だった。そして俺はこれを「トルク理論」と名付けた。

Fisher Price Portable Phonograph Record Player (1978)
via. ebay

Magnavox Turntable FP7130SL01
via. ebay
数えきれないほどのターンテーブルを経験した後、ブロンクスのハンツポイントにある店の前を通りかかった時のこと。ウインドウにダサいスチールグレーのターンテーブルが置いてあった。
店内に入り「ちょっとテストしたいので、あのターンテーブルをウインドウから出してもらえない?」と店員に聞いた。あまり知られていない会社で、小さなステッカーには「Technics」と書いてあった。モデル名は「SL-23」。

テクニクス SL-23
via. Just Audio
試してみると手を置いたときの「トルク」がかなりいい。プラッターを停止させ電源を入れてみる。するとこのターンテーブルは、ほぼ1/4回転でフルスピードになった。まさに「俺用のターンテーブルだ」と思った。
値段は1台75ドル。俺が放課後にメッセンジャーボーイの仕事をしていたのは、このターンテーブルを2台手に入れるために、お金を貯めなければならなかったからだ。
この特別なターンテーブルは、いわゆる「1200」の曽祖父にあたる機種。俺が使い始めると、DJ達は皆「Technics」のターンテーブルを買うようになった。
俺は科学的なアプローチから入った。キューイングやDJに適した針、「ウエハース」、2枚の全く同じレコード、(自分で再構築した)ミキサーなどを考案すると、10秒のドラムビートを継ぎ目なく10分間プレイすることができるようになった。
俺はとても興奮していた。親友のマイクが俺の家に泊まった日のことだ。俺は朝の3時に彼を起こして言った。
「マイク、これを見てくれ」するとマイクは俺に「レコードの上に指を置いているが!?」と言うんだ。
俺は「わかってるよ、マイク、わかってる」と返事をした。
10秒のドラムビートを延長することで、MCやラッパーが話すための音楽の土台が出来上がった。これはラップの始まりでもあった。
関連記事:「初めてのミキサーはSONY MX-8だった」:グランドマスター・フラッシュが語る「ピーカブー・システム」と「クロック理論」
DJ界のグランドマスター誕生
![“The Chinese Connection”, Bruce Lee [Movie 1972]](http://oldschoolhiphop.suniken.com/wp-content/uploads/2022/08/the-chinese-connection-bruce-lee-movie.png)
“The Chinese Connection”, Bruce Lee (1972)
via. josef lebovic gallery
ブルース・リーがすべてだった。ブルース・リーの新しい映画が公開されると必ず観に行ったものだ。しかも彼はグランドマスター(武術の称号)でもあった。
1972年の冬、パーティーに来た俺のファンのひとりが「マジかよ。おまえ、ターンテーブルをグランドマスターのように扱えるじゃないか」、そう言って彼はブルース・リーの動作を真似た。
それから俺は「グランドマスター・フラッシュ」を名乗るようになった。一時期はDJフラッシュとして活動していたが、グランドマスター・フラッシュがしっくりきた。

「カンフーの達人、ブルース・リーがあなたを打ちのめす」
via. josef lebovic gallery