
via. Billboard
モバイルDJが、オールディーズR&Bのレコードで何かをスタート
「B・ビーツ」がブロンクスで殺到ニューヨークの「ダウンステアーズ・レコード」では、奇妙な現象が起きています。
「モバイルDJ」とは、ラジオやナイトクラブ専属のディスク・ジョッキーに対し、自分でレコードをコレクションし、自前のシステムを使用、ブロックパーティーやナイトクラブなどに「出向いて」場を盛り上げるDJのこと。
米ビルボード誌1978年7月1日号の記事より。

via. Billboard (1978/7/1)
30秒の「ブレイク」を求め、無名の廃盤にDJが殺到

「DJの方には、特別割引をご用意しております。国内・輸入ディスコ・レコードのカタログをご用意しておりますので、お気軽にお問い合わせください」
レコード店「ダウンステアーズ・レコード」の広告(1978年)
via. Downstairs Records
関連記事:ダウンステアーズ・レコード 新譜入荷情報:1979年7月21日
ニューヨークを代表するディスコ・ミュージックの販売店である「ダウンステアーズ・レコード」には、
- デニス・コフィー「サン・オブ・スコーピオ」(サセックス・レコード)
- ジェニー・レイノルズ「ザ・フルーツ・ソング」(カサブランカ・レコード)
- インクレディブル・ボンゴ・バンド「ボンゴ・ロック」(プライド・レコード)
など、世に知られていないR&Bの廃盤レコード、「カットアウト盤」の依頼が殺到しています。

Jeannie Reynolds / The Fruit Song (1976)
via. Discogs

Dennis Coffey And The Detroit Guitar Band / Electric Coffey (1972)
via. Discogs

Michael Viner’s Incredible Bongo Band / Bongo Rock (1973)
via. Discogs
リクエストのほとんどは、ブロンクスで活動する若い黒人のディスコDJ達からのもので、各ディスクに収録されている「30秒ほどのリズム・ブレイク」をプレイするためだけに、レコードを購入しているといいます。
「B・ビーツ」と呼ばれる、これらのレコードの需要は非常に大きく、レコード店「ダウンステアーズ」では若いブロンクスの青年、エルロイ・ミーガンを雇わなければ、対応しきれない状態になりました。
DJクール・ハークは、曲の「イケイケ」だけを切り取る

Kool Herc (right) with The Cold Crush Brothers’ Tony Tone (1979)
via. Joe Conzo/Museum Of The City Of New York
関連記事:Kool Herc(クール・ハーク)
ミーガン君によると、この奇妙な現象を引き起こしたのは、ブロンクスでは「クール・ハーク」として知られる、26歳*のモバイルDJだといいます。
どうやらハーク氏は、様々なリズム・ブレイクを組み合わせた長時間のセットを演奏することで、人気を博したようです。
*正確には、ハークは当時23歳、1955年4月16日生まれ。
この「新習慣」を、他のブロンクスのDJたちも取り入れ、今では「B・ビーツ」が街中で大流行、急速に広まっています。 DJ歴5年のハークによると、この独特な演奏スタイルは「ボンゴ・ロック」という、1枚のレコードに魅せられたことがきっかけだった、という。

Michael Viner’s Incredible Bongo Band / Bongo Rock (1973)
via. Discogs

Michael Viner’s Incredible Bongo Band / Bongo Rock (1973)
via. Discogs
「この曲の『ブレイク』は本当に超イケイケなんだけど、あまりにも短い。だから他の曲を探す必要があったんだ」とハークは語ります。
当時出回っていた、ディスコの新作に満足しきれていなかったハークは、ノリのいい「ブレイク」が入った曲をいくつも、「カットアウト盤の箱」から探すようになっていきました。
ニューヨーク・タイムズに掲載された記事によると、「1972年後半のブロンクス、クール・ハークという名前でパーティーDJとして働いていたジャマイカ移民の若者は、同僚のDJ、ティミー・ティムを通じて『ボンゴ・ロック』のLPを発見した」という記述があります。
ボンゴ・ロックのリメイク盤?

Arawak All Stars / Bongo Rock (1978)
via. Discogs
ハークの熱心な曲探しの結果、最近では「ボンゴ・ロック」のニュー・リメイクを発掘。
これは、1973年の曲をアラワク・オールスターズというグループがカバーしたもので、ジャマイカを拠点とするレーベル、アラワク・レコードからリリースされています。
この記事の「ボンゴ・ロックのリメイク盤」とは、カバー・バージョンの体で流通していた、原曲を複製しただけの「ブートレグ」のこと。
関連記事:「ボンゴ・ロック / アパッチ」の海賊版: アラワク・オールスターズ(1979年)

Arawak All Stars / Apache (1978)
via. Discogs
流行のディスコに不満のあるキッズたちが、ブレイクビーツを支持

Grand Wizard Theodore, Ritchie T, and Kool Herc at the T-Connection (1980)
via. Charlie Ahearn
また、「ブレイク」のいくつかは、より速いスピードで演奏すると、より良い反応が得られることを、ハークは発見。
ジェニー・レイノルズのようなレコードは、「33 1/3回転」ではなく「45回転」で演奏しています。

Jeannie Reynolds / Cherries, Bananas & Other Fine Things (1976)
via. Discogs
今日のディスコ・ミュージックに、多くのキッズたちが不満を持っていることが、「B・ビーツ」の人気につながっていると、ハークは考えます。
「ほとんどのレコードでは、たくさんのストリングスや歌が終わるのを待って、ようやく『いいところ』にたどり着く」「みんなは、そこまで待たなければならない」ハークは確信します。
「だから俺はその『いいところ』を前面に出しているのさ」
関連記事:DJハークと彼の「B・ビート」
ハークはいつか、「ボンゴ・ロック」をはじめとする無名のナンバーを収録した、「B・ビーツ」のアルバムを作りたいと考えています。それまでは、ブロンクスで活動しているクラブで、ダンスミュージックにそれらの音楽を「詰め込んで」いくつもりです。