
via. N.Y. Amsterdam News
ハークは単に最新のレコードをかけるだけでは満足せず、古いカットアウトを発掘し始めました。「ブレイク」と呼ばれるセクションが、ブロンクスの若いダンサーたちの大好物であると、彼は知っていたからです。
「フリーク」はグラインドが非常に挑発的とも言える、ルーズでファンキーなダンス。このダンスのセクシーな動きには、「B・ビート」のヘビーなリズム・トラックが最適です。
アフリカ系アメリカ人向けメディア、ニューヨーク・アムステルダム・ニュース1978年7月1日号のコラムより。音楽ジャンルとしての「ヒップホップ」という名称がメディアに登場する以前の記事で、DJハークの音楽を「B・ビート」として紹介しています。
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コラムの執筆者は当時アムステルダム・ニュースのインターンとして活動していたネルソン・ジョージ氏。後にビルボード誌やヴィレッジ・ヴォイス誌等のエディター、コラムニストとして、またテレビ・ドキュメンタリー「アメリカン・ギャングスター」(2006年-2009年)等の映像プロデューサーとして活躍することになる、ジョージ氏の最初期の記事です。

DJ Herc and his “B-beats” by Nelson George
(N.Y. Amsterdam News 1978/7/1)
via. christies
DJハークと彼の「B・ビート」
ネルソン・ジョージ著ブロンクス、暖かい金曜日の夜。タフト高校のグラウンドには、DJハークのジャムを聴くために、あちこちから人々が集まっています。
彼は背が高い。26歳*で、思春期の女の子をクスッとさせるような静かな落ち着きを持ち、パーティー・マスターとしてのハークの評判は、サウスブロンクスでは群を抜いています。
*「26歳」:正確には、ハークは当時23歳、1955年4月16日生まれ。
ハーク(本名、クライヴ・キャンベル)は多くのDJと異なり、パタパタと頭を回転させ続けるような高速ラッパーではありません。そう、ハークはターンテーブルの音楽的革新者なのです。
ハークは単に最新のレコードをかけるだけでは満足せず、(レコード店の)箱の中から、2ドル99セント以下で売られている古いカットアウト(廃盤)を発掘し始めました。
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曲の間でメロディが止み、ラテン・パーカッションがエネルギッシュに登場する「ブレイク」と呼ばれるセクションが、ブロンクスの若いダンサーたちの大好物であると、彼はDJの経験上知っていたからです。
そこでハークは、最近のヒット曲の途中に古いヒット曲、たとえばデニス・コフィーの「スコーピオ」のパーカッシブな部分や、無名のアルバム(映画)「ウィリー・ダイナマイト」のサウンドトラックから1パートを挿入することで、より長く、よりエキサイティングなダンス体験を作り出していきます。

「スコーピオ」収録、デニス・コーフィー&ザ・デトロイト・ギター・バンド「エヴォリューション」(1971年)
via. Discogs

JJ・ジョンソン「ウィリー・ダイナマイト・オリジナル・サウンドトラック」(1974年)
via. Discogs
DJハークの最大の発見はインクレディブル・ボンゴ・バンドの「ボンゴ・ロック」。コンゴとボンゴのみの演奏が大きくフィーチャーされているこのレコードは、あまりにも人気となり、ハークのテクニックを称えて「B・ビート」とタグ付けされたほどです。

インクレディブル・ボンゴ・バンド「ボンゴ・ロック」(1973年)
via. Discogs
4年ほど前に(ハークが)考案した「B・ビート」は、現在では(ハーク以外の)インナーシティ*のDJたちにも様々なスタイルで使用されています。
*インナーシティ:都心周辺の低所得居住地域
ハークとハーキュロッズ(ハークの助っ人の愛称)は現在、高校のダンスパーティーやプロム(卒業パーティー)、そしてジェローム・アベニュー1590番地にあるディスコ「スパークル」に定期的に出演しています。
ハークが古いレコードを使う大きな理由は、ディスコ向けの音楽の多くが残念ながらそうであるように、「キッズたちは加工された音楽を好まない」から。さらに、現代のダンスミュージックは、ハッスルの優雅なツイストとターンに対応するため様式化されているということもあります。
しかし最近「ショート・スタッフ」と呼ばれる若い女性がコメントしたように「ハッスルは終わり、フリークが始まった」のです。「フリーク」は(腰の)グラインドが非常に挑発的とも言える、ルーズでファンキーなダンス。このダンスのセクシーな動きには、「B・ビート」のヘビーなリズム・トラックが最適です。
ハークがタフト高校で演奏を始めると、聴衆の中の何人かがフリークを踊り始めます。音楽がいい感じになっていくにつれ、ダンサーの数が増えていき、そんな中、ハークとハーキュロッズは、スタートレック風の洗練された電子機器をモニタリングしています。
ディスコ・ミュージックは苦手という人も多いかもしれません。しかし若い世代の男の子たちが、DJ機器を通じてエレクトロニクスに目覚めたことは興味深いことです。おそらく今夜も、未来の黒人電気技師たちが、公園でディスコ・ミュージックを演奏しているでしょう。