「ホイールズ・オブ・スティール」を知るための9つのヒント:グランドマスター・フラッシュのマッシュアップ

Breakdown of Proto-Mashup “Wheels of Steel”

Breakdown of Proto-Mashup “Wheels of Steel”
via. polygraph

ターンテーブルとミキサーのみを楽器として使用し、1人のミュージシャンによって録音された初の作品「ホイールズ・オブ・スティール」(1981年)。このレコードのリリースによって、グランドマスター・フラッシュのDJとしてのスキルが初めて世界に知られることになります。

THE SONGS AND TECHNIQUE OF FAMED DJ GRANDMASTER FLASH : polygraph

Netflix系メディア、Polygraphに掲載されたグランドマスター・フラッシュの特集記事から。ヒップホップの歴史においてDJをフィーチャーした初の楽曲として「ホイールズ・オブ・スティール」を取り上げ、楽曲の構造を明らかにしています。

Grandmaster Flash And The Furious Five ‎– The Adventures Of Grandmaster Flash On The Wheels Of Steel (1981)

Grandmaster Flash And The Furious Five ‎– The Adventures Of Grandmaster Flash On The Wheels Of Steel (1981)
via. Discogs

ここでは楽曲を個々のサンプリングに分解。グランドマスター・フラッシュがどのようにして、異なる10曲から断片をつなぎ合わせて1つの音楽を作り上げたのか見てみましょう。

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パンチ・スクラッチ

Monster Jam - Spoonie Gee Meets The Sequence (1980)

Monster Jam – Spoonie Gee Meets The Sequence (1980)
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パンチ・スクラッチとは、フラッシュがブレイクの最初のビートもしくはフット(フレーズ)においてミックスを行うこと。多くの場合リズムに合わせて4回ほどプレイされ、前奏の役割を果たします。

THE SONGS AND TECHNIQUE OF FAMED DJ GRANDMASTER FLASH : polygraph

ブロンディとヒップホップ

Rapture - Blondie (Autoamerican 1980)

Rapture – Blondie (Autoamerican 1980)
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ブロンディはヒップホップの大ファンで、自分たちの音楽の中でもそのことについて歌っています。デビー・ハリーは「ラプチュアー」でフラッシュを讃え、フラッシュはそのライン(フレーズ)をサンプリングすることで彼女へ感謝の念を示しています。彼女がフラッシュの名前を口にした瞬間に、2回ほどダブル・バックを行なって強調しています。

サイレント・フェーズ

Apache - Michael Viner’s Incredible Bongo Band (Bongo Rock 1973)

Apache – Michael Viner’s Incredible Bongo Band (Bongo Rock 1973)
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サイレント・フェーズとは、スクラッチを上乗せせずに、あるブレイクから別のブレイクへの移行することです。1つのブレイクが終了して(ビートが)中断したタイミングから、インタイムで次のブレイクがはじまります。

アナザーワン・バイツ・ザ・ダスト

Another One Bites the Dust – Queen (The Game 1980)

Another One Bites the Dust – Queen (The Game 1980)
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フラッシュがこの曲を初めて聴いたのは、1980年にシュガーヒル・レコードと契約した日でした。「アナザー・ワン・バイツ・ザ・ダスト」のベースラインは、「グッド・タイムズ」のものと非常によく似ています。この類似性を利用してフラッシュは、両者がちょうど隣り合わせになるようにミックスしています。

フラッシュはシックが好き

Good Times - Chic (Risqué 1979)

Good Times – Chic (Risqué 1979)
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「グッド・タイムス」のサンプリングはミックスの中軸として機能。フラッシュは5つの異なるクリップとしてプレイしています。各クリップでは、同じメロディーの演奏パートを異なるフレーズとしてフィーチャー。フラッシュは、レコードのどこからスクラッチを始めるかによって異なるセグメント(断片)をミックスし、さまざまな効果を演出しています。

セルフ・リファレンス

Freedom - Grandmaster Flash And The Furious 5 (1980)

Freedom – Grandmaster Flash And The Furious 5 (1980)
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「ホイール・オブ・スティール」でフラッシュは自身の曲である「フリーダム」の短いフレーズを切り取り、「グッド・タイムス」のベースラインの上に重ねています。ベースラインをずっと流したまま、フェーダーを使って「Grandmaster, cut faster」のパートを(何度も)プレイ。セルフ・リファレンス(自己言及)はヒップホップの大きな要素であり、フラッシュはそれを広範囲に渡って行なっています。

クロスオーバー

Life Story - The Hellers (Singers, Talkers, Players, Swingers, and Doers 1968)

Life Story – The Hellers (Singers, Talkers, Players, Swingers, and Doers 1968)
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フラッシュは、あるサンプリングを別のサンプリングに重ねる際にクロスオーバーを行います。パンチ・スクラッチと組み合わせて、ボーカルのサンプリングを長めにカット。「ライフ・ストーリー」のボーカル(会話)は途切れることなく続いています。

スクラッチ・フェーズ

The Birthday Party - Grandmaster Flash And The Furious Five (1981)

The Birthday Party – Grandmaster Flash And The Furious Five (1981)
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スクラッチ・フェーズは、フラッシュがあるブレイクから別のブレイクに移行するときに登場します。最初のブレイクの上に新しいブレイクをスクラッチ。パンチ・スクラッチにも似ていますが、違いは特徴的なスクラッチ音です。

メリオディック・スクラッチ

8th Wonder - The Sugarhill Gang (1980)

8th Wonder – The Sugarhill Gang (1980)
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メリオディック・スクラッチは、移行のためというよりもブレイクにリズムを加えるためのものです。スクラッチのパターンで音の層を厚くする。再生されているレコードのリズムとは異なるサウンドをプラスします。

「ホイール・オブ・スティール」の後半、「グッド・タイムズ」の部分でフラッシュはこのメリオディック・スクラッチを行っています。スクラッチのリズムがベースラインのリズムをどのように補完しているかに注目してください。

The Decoys Of Ming The Merciless - The Official Adventures Of Flash Gordon (1966)

The Decoys Of Ming The Merciless – The Official Adventures Of Flash Gordon (1966)
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グランドマスター・フラッシュは、ターンテーブルを楽器として再定義しました。様々なサウンドバイト(短いフレーズ)やオーディオクリップは、傑作「ホイールズ・オブ・スティール」を構成する素材となりました。

音楽をサンプリングしたり、ターンテーブルでスクラッチしたりする人は、何らかの形でフラッシュの恩恵を受けているのです。

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